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自己破産と損害賠償・慰謝料の支払いと非免責債権が払えない場合の対応
1 自己破産と損害賠償請求・慰謝料請求の関係を解説
借金を返せなくなったときの代表的な対処法として、「自己破産」があります。
自己破産は、基本的にはすべての債務の返済が免責される手続きです。
自己破産により免責が許可されれば、破産者は新たな生活をスタートすることができます(※免責=債務の返済義務を免れること)。
では、自己破産者が損害賠償金や慰謝料(離婚慰謝料など)を請求されていたら、これらも免責されるのでしょうか。
多額の賠償金・慰謝料の支払い義務を負っている方や、反対に賠償金・慰謝料を請求しているのに相手方に自己破産されたという方としては、とても気になることかもしれません。
今回は、自己破産と損害賠償請求・慰謝料請求の関係を解説します。
2 自己破産で免除されない債務
借金等の債務の返済ができなくなったとき、法的に減額等することを「債務整理」といいます。
債務整理には大きく分けて任意整理、個人再生、自己破産の3種類があります。
自己破産が認められると(正確には免責が許可されると)、原則的に債務の返済はすべて免除されます。
その意味で、自己破産は債務整理の中でも最も強力な効果を持つ手段であるといえます。
しかし、自己破産をしても免責されない債務があります。
この債務(債権者から見た債権)のことを「非免責債権」といい、その対象は破産法によって決められています。
3 非免責債権とは何か
「非免責債権」は、たとえ裁判所からの免責許可決定を得ても、支払い義務を免れることはできません。
この非免責債権とは、一体どのようなものなのでしょうか。
⑴ 破産法の定めについて
非免責債権(自己破産をしても免除されない債務)は、破産法の253条第1項によって決められています。
【破産法で定められている非免責債権】
①租税などの請求権(税金、年金、国民健康保険、介護保険など)
②破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
③破産者が故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
④養育費や婚姻費用分担義務に基づいた請求権
⑤雇用関係に基づいて生じた従業員の給料債権など
⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
⑦罰金などの請求権
これらは、債務免除を認めると社会正義に反する結果となることや、不平等な結果が導かれてしまうことを考慮し、規定されたものです。
⑵ 非免責債権と免責不許可事由の違い
非免責債権と混同されやすいのが「免責不許可事由」ですが、この2つはまったく別物です。
非免責債権は、免責許可がなされても支払う義務のある債権のことを指します。
一方、免責不許可事由は免責許可がなされない原因のことを指します。
免責不許可事由の例としては、ギャンブルによる借金が原因の自己破産です。
こうしたケースでは、そもそも免責が認められません(ただし、裁判所の裁量によって免責が認められることがあります)。
4 非免責債権となる損害賠償請求の種類
実務上、非免責債権として多く見られるのは、上記のうち「①税金」や「④養育費」ですが、ここでは「損害賠償請求金」(②及び③)について解説致します。
損害賠償請求金で免責が認められないケースは、上記のとおり「悪意で加えた不法行為」(上記②)や「故意または重過失により身体、生命を害する不法行為」(上記③)によって発生した損害賠償請求金です。
「悪意」「故意」「重過失」などに該当するか否かによって、免責される債務と免責されない債務があるため、とても複雑です。
以下、この点について詳述します。
法律用語における「悪意」とは、通常「何かを知っている」という意味で使われることが多い文言です。
しかし、この破産法上の悪意とは、単に上記の「知っている」とは異なり、さらに故意以上の「他人を害する積極的な意思」を指すとされています(その点では、一般的な言葉としての「悪意」の意味合いに近いかもしれません)。
すなわち、「悪意」「故意」「重過失」といった言葉からも分かるように、加害者の積極的な害意や著しい落ち度によって発生した損害賠償については、免責が認められないことになります。
加害者に著しい落ち度があるとは、具体的にどのようなケースなのか、実際の例を挙げながら詳しく見ていきましょう。
⑴ 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(2号)(上記②)
夫婦間の離婚協議で、妻が夫に対して慰謝料を求めるケースを例にとります。
仮に夫の浮気が原因で離婚に発展した場合は、妻が浮気をした夫に対して慰謝料(示談金)を請求することができます。
しかし、夫が浮気をしても積極的に妻を害する意思がなければ、悪意があるとまでは言えず、自己破産をすれば慰謝料が免責される可能性は高くなります。
それに対し、夫のDVが原因で離婚に至るときには、夫が妻に対して暴力を振るって害を与えようとする意思があるため、「悪意」で加えた不法行為と認められるケースが多いと考えられます。
このような場合、DVをした夫に対して妻が求める慰謝料は免責されません(なお、DVとして直接的な暴力がある場合は、上記の③にも当たる可能性があります。)。
その他、他人の物を盗んだり、横領したりした場合も、悪意で加えた不法行為とされ、損害賠償債務が免責されることがないのが通常です。
⑵ 破産者が故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(3号)(上記③)
具体例を挙げると、傷害事件の被害者から加害者への損害賠償請求権です。
この損害賠償請求権は「故意」による身体を害する不法行為を原因とするため、自己破産しても免責はされません。
交通事故の場合は、「重大な過失」があると認められるかどうかが問題となります。
例えば、交通事故でもわき見運転のような単なる不注意であれば、安全運転義務違反で重過失とまでは言えず、損害賠償債務も免責される可能性があります。
しかし、危険運転致死傷罪が成立するような悪質な場合は、重過失があると認定され免責されない可能性が高くなります。
危険運転致死傷罪が成立するケースとしては、飲酒運転、時速30km以上のスピード超過(高速道路を除く)、薬物の使用、無免許運転、居眠り、ひき逃げなどが挙げられます。
交通事故に関しては、個別のケースで状況が異なり、過失割合なども関わるので、一概に判断をすることはできませんが、基本的な目安としては上記の通りです。
なお、物損事故の場合は過失があったとしても、生命・身体に害を与えていないので、免責されます。
一方、交通事故で発生した罰金刑については免責されません(上記⑤)。
なお、「人身事故を起こしたら自己破産できない」ということではないので、混同しないようにしましょう。
5 非免責債権が払えない場合
仮に損害賠償請求権などの非免責債権があり、かつ支払えないような経済状況である場合、どのような対応をすればよいのでしょうか。
まず、税金などの公租公課は、市役所等に相談をすると、分納や猶予、免除が認められる可能性があります。
一方、損害賠償金が支払えない場合は、債権者と個別に交渉などを行い、減額や猶予などを相手方に認めてもらう必要があります。
もっとも、非免責債権となるような損害賠償請求権が発生するケースは、被害者である相手方が感情的になっているケースが多く、交渉が難航する可能性があります。
6 自己破産をご検討中の方は弁護士へ
上記のとおり、一概に損害賠償請求(慰謝料請求)と言っても、個別の事例によってケースバイケースとなるので、損害賠償債務が免除されるか、されないかの判断は難しい部分もあります。
今現在自己破産を検討していて、損害賠償も請求されている方は、まずは当法人の弁護士にご相談ください。
ご相談者様が負っている損害賠償債務が免責される可能性について、具体的にアドバイスさせていただきます。
ご相談は原則として無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。